【特別寄稿】『古楽・古楽器ヴィオラ・ダ・ガンバ』櫻井茂(PRISM consort of viols)

news2023年9月12日



音楽の秋10月に、柔らかで繊細な音色と響きが特徴的な古楽器「ヴィオラ・ダ・ガンバ」のレクチャーコンサートを開催。普段なかなか触れる機会の少ない珍しい古楽器の響きを、間近でお楽しみいただけます。
出演は、PRISM consort of viols。「ヴィオラ・ダ・ガンバ」の深く豊かな響きと、生き生きとした表現を追求する三人のアンサンブルです。
PRISM consort of violsのリーダーで、海外でも活躍されている櫻井氏にご寄稿いただきました。

 PRISM consort of violsの櫻井です。私は今、韓国のソウルに来ております。コロナ以降久し振りの訪問になりますが、しかし20年ほど前には、それこそ毎月のように韓国を訪れていました。というのも、古楽器の演奏会を韓国の演奏家たちと一緒に行う機会が頻繁にあったからです。
 当時、韓国人の古楽器演奏家はまだ数少なかったので、演奏会の度に共演として招いていただくような状況でしたが、今はヨーロッパで勉強をした優秀な古楽器演奏家が沢山韓国に戻ってきているので、客演として呼んでいただく機会もほとんど無くなってしまったというわけです。

 ある時代、例えばバロック時代の音楽を、その当時の楽器を使い、また演奏習慣を踏まえて演奏しようという取り組みを今日一般に「古楽」と呼んでいます。そして、その時代に使われていた楽器を古楽器と呼んで、現代の楽器とは区別しています。
 古楽器の中には、フラウト・トラヴェルソやバロック・ヴァイオリンのように変化を続けながら現代まで繋がっている楽器もあれば、チェンバロやリュートのように19世紀を境に使われなくなってしまった楽器もあります。ヴィオラ・ダ・ガンバもまた、フランス革命以後歴史から姿を消してしまった楽器のひとつです。

古楽器「ヴィオラ・ダ・ガンバ」 左からトレブル、テナー、バス(「PRISM consort of viols」櫻井氏提供)

 19世紀末から20世紀にかけて音楽様式は様々な意味で拡大を続け、後期ロマン派からいわゆる現代音楽へとつながっていきますが、一方でこうした流れに対して、古い時代の音楽をその時代の文脈の中で見直そうという動きが起こってきます。このような動きの中で、ヴィオラ・ダ・ガンバも再発見されることになったのです。

 ヴィオラ・ダ・ガンバの魅力といえば、まず第一にその響きの美しさがあげられるでしょう。バロック時代の人々の感覚が、世界を物質的、精神的、霊的といった異なる次元の総体として捉えるようなものであったとするならば、そうした様々な次元を貫くものこそが真の音楽の響きといえるのではないでしょうか。それこそが17,18世紀の音楽家たちが様々な理論書の中で述べてきた音楽の本質であるようにも思います。

ヴィオラ・ダ・ガンバの楽しみ 〜ルネッサンスの調和とバロックの煌めき
2023年10月12日(木)  開場 13:30 開演 14:00
チケット好評発売中
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学習院大学文学部心理学科を経て東京藝術大学卒業。コントラバスを笠原勝二、吉川英幸、西田直文、江口朝彦、ヴィオラ・ダ・ガンバを大橋敏成、ローレンス・ドレフュスの各氏に師事。また藝大バッハ・カンタータ・クラブにおいて小林道夫氏の薫陶を受ける。'80年代より「コレギウム・アルジェントゥム」を主宰し古楽器による演奏活動を始め、独奏者として国内各地及びイギリス、アイルランド、ノルウェー、アメリカ、韓国等で活動。またバッハ・コレギウム・ジャパン等多くの古楽アンサンブルにも参加する。東京藝術大学、高知大学、慶応義塾大学非常勤講師を経て上野学園大学准教授、延世大学音楽研究所特別招聘教授。

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